多くの国で大学入学資格として認められている国際バカロレア(IB)資格。その取得に必要な能力のうちの数学について解説した一冊,馬場博史『国際バカロレアの数学 世界標準の高校数学とは』(松柏社, 2016)。本書によるとその特徴は,①学際的であること,②グラフ電卓が必要であること,③試験中に公式集を参照できること,であろう。

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①学際的であることは,第4章で紹介されている問題に,日本の大学入試ではあまり見ない応用数学の問題が多いことに表れている。必修要件の一つ,Theory of Knowledgeの参考書『TOK(知の理論)を解読する』にも学際性を感じる。

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グラフ電卓に必要な機能と利用できる機種のリスト。数式処理システム(Computer Algebra System, CAS)の機能が不可というのはちょっと中途半端ではないだろうか(紙と鉛筆だけの日本を棚に上げて)。

今後,IB認定校になる学校の数学の教員は,グラフ電卓を自由に使いこなし,指導できるようになることが求められる。(p.195)

このあたりは時代とともに変わるはずだから,日本の高校教師には,もっと先を行ってCASを自由に使いこなせるようになることを求めたい。

公式集の日本語版を見ると,日本の高校数学よりも,少し範囲は広いようだが,そのあたりの詳細な比較があるとよかった。(日本の大学入試も,もう少し範囲を広くして,その分難易度を下げた方がいいと思う。)

細かいこと

  • Mathematical Exploration(試験とは別に課されるレポート)には,所属校の教員の能力が強く影響しそう。
  • (2次元ベクトルの外積が)C言語などでも使われている(p.123)というのはどういうことなのだろう。
  • 第4章で紹介されている問題(全41問)に類題が多すぎる。
  • 周期的な時系列データに関する問題(18, 21, 22, 24, 25, 26)で,a sin (b(t-p)) +qというモデルを何の検証もなく導入しているのはよくないと思う。より悪いモデルでも,何らかの検証がある方がマシだろう。(それを高校生に求めるつもりはない。問題があまりよくない気がする。)
  • 問題40は,x=p(1-p)とすればふつうの電卓でも解ける。
  • Further Mathematics HL(最高レベルの数学科目)の話題がもっとほしかった。