斎藤正彦『線型代数入門』(東京大学出版会,1966)のあとがきでは,この本の内容に関わる歴史が,文献とともに紹介されていました。

書影

このあとがきについて,渡辺公夫さんは数学セミナー編集部編『数学完全ガイダンス』(日本評論社,1999)で次のように言っています。

「あとがき」を地図がわりに随時参照すれば,理論の背景や意味を理解する助けとなるでしょう.(p.198)

しかし,出版から約30年になる41刷(1996)で,このあとがきが7ページから2ページに書き換えられ,歴史の解説と文献リストはなくなってしまいました。(ISBNは変わっていないようです。

私の手元にある43刷(1998)は書き換え後のものですが,参照先のない文献参照が3個残っています。(以下,下線は引用者による。)

p.234

註2. 実係数の代数方程式の理論としては,実根の数の評価,根の存在範囲の評価,根の近似計算法など重要なことが多くあるが,ここでは省略する.脚註:あとがき文献[1][2]参照.

p.235

たとえば,定理[1.2],[1.4]などに対応することがらは成立たない。しかし,素因数分解の一意性([1.8])は成立つことが証明される.脚註:あとがき文献[1]参照.

p.249

詳しくは抽象代数学の書物(たとえばあとがき文献[4])を見られたい.

元の文献リストによると,文献[1]から[4]は次のとおりです(リストは全部で26件)。

ちょっと古い感じはしますが,『線型代数入門』自体がどういう時代に書かれた本なのかを示すという意味でも,初版のあとがきは残しておいた方がよかったと思います。([3]は東京図書から新装版が刊行中)

今の大学1年生が買っているであろう62刷(2018)を見せてもらったら,上記引用中の下線部はすべて削除されていました。古くても無いよりはマシなのに。