竹川圭『至高の靴職人 関信義 手業とその継承に人生を捧げた男がいた』(小学館, 2014)より。

表紙

こんな話を知っているか。むかし,ヨーロッパのどっかの国でベントレーが盗まれた。もち主は泥棒に広告を打とうと思い立つ。酔狂なやつだな。が,やつが本領を発揮するのはこっからだ。その広告はなんと,クルマはくれてやるから,トランクに入っていたジョン・ロブの靴だけは返してくれって内容だったんだ。ロブっていや,紳士靴の一等賞っていわれるブランドだわな。それにしたって,ベントレー以上の価値をみとめさせたってのはちょっとすごい。

これが実際にあった話かどうかなんてのは問題じゃないんだ。

おれもそういう靴がつくりたい。客にぎゅっと両手で抱きしめてもらえたら最高だね。それにはいまもって努力が必要だ(p.180)