生身の人間には簡単で、コンピュータには難しいチェスの問題
羽生善治『大局観』(角川書店, 2011)(参考文献リストなし・索引なし)の「将棋とチェスの比較」という節に、次のような記述がありました。
二十世紀を代表する宇宙物理学者の一人、ロジャー・ペンローズは、著書の『皇帝の新しい心 コンピュータ・心・物理法則』で人間には簡単に認識ができて、コンピュータにはとても難しいチェスのポーンの型を紹介している。(p.196)
羽生さんが言っているのは、『皇帝の新しい心』ではなく、ペンローズ『心は量子で語れるか』(講談社, 1998)(ブルーバックス版, 1999年)(参考文献リストあり・索引あり)のことだと思われます。
ペンローズは、生身の人間なら簡単にわかるにもかかわらず、Deep Thought(Deep Blueの前身)では解けなかった局面を2つ紹介しています(ブルーバックス版のp.164)。
ペンローズは、この例は、単なる計算と理解との本質的な違いを説明している(p.166)
と書いていますが、私の手元のチェスプログラム(Lucas Chess)は、瞬時に正解を見出しました。
もう一つの例では、私の手元のチェスプログラムは、ペンローズが言うとおりの間違いを犯しました。
これがペンローズの言う直接的な計算以外に、“理解すること”によって働く別の何かが存在する(p.167)
ことの実例とは思えませんが、生身の人間がコンピュータに勝てる部分がチェスの世界に残っているとは意外でした。